pochitto’s blog

詩、雑感などを記しています。

兵器



「誰でも殺せます」
その張り紙を見て僕は
丘の上の 小さな建物を目指す


汗が出る
それでも昇る
急勾配の道路を 勘を頼りに
聞き慣れない住所のありかを探す


日が昇りきった頃
ようやく 其処を見つけた


苔むしたコンクリート
潰瘍の如き弾痕


かろうじて原型を保つガレージ
半開きのシャッターの奥から
闇が じっとこちらの様子を窺っている


コツ コツ コツ と反響する靴音
後ろめたい 僕自身の


その背を押すように


「誰でも殺せます」


白いコピー用紙に 神経質な字で
びっしりと


辿り着いた 其処は
かつて僕が脱ぎ捨てた 殻


苦い思い出と共に 葬り去ったはずの
紙が破れるまで鉛筆で書き殴った
空想の


かつての兵器庫
口を ぱっくりと開けて
虚ろな目で 正午の時報を聞く


ひび割れたコンクリートから
泥水はもはや滴ることもなく


天頂からの陽光を浴び
真っ白に


僕も 建物も
張り紙の神経質も


白く
白く


白く



白く